2018美食都市サンセバスチャン視察研修。そして丹後の今後へ。
大変遅くなっていましたが、昨年10月に参加した世界的美食都市サンセバスチャンへの視察研修へ参加した際のご報告です。
スペイン北東部、フランス国境付近くのバスク地方に位置し、人口は18万6千人。
美しい海岸に恵まれたヨーロッパ有数のリゾート地、スペインで最も著名な観光地の一つで、夏を中心に観光客が多い街です。
豊富な食材、ウラニシという天候や面積、人口、宿泊施設のキャパシティーなど京丹後市との共通項が多くあります。
京丹後市内の料理人を中心に8名のメンバーで行ってきました。
現地3日間の行程ですが、7時間ほどの時差もあり、丹後を1週間ほど離れることになります。
アテンドは美食コーディネーターの山口純子さんという有名な方が案内してくださいました。
メンバー皆で必要な課題を考え、出発までに5回程事前学習を行い準備しました。最高で有意義な経験を目指して。
丹後から約27時間かけて真夜中にサンセバスティアンのホテルに到着。つかれてヘトヘトでしたが、
翌朝からは早速、「世界ガストロノミカ2018」です。
世界各地で開催される料理学会のルーツともいえる世界一の料理学会。
今回で20回目を迎え、 1万3000人以上の「食」の関係者が集まったそうです。
メイン会場のホールではスペイン国内をはじめ世界中のトップシェフが、実際に調理を聴衆の前で行い、その場で試食もできるんです。出展エリアでは、世界中からワイン、魚介類(マグロ、エビ、ブリなど)、野菜、加工食品(缶詰、チーズ、生ハムなど)、調理器具など食、料理に関するブースが出展され、多くの来場客で賑わっていました。
料理に携わる人間が、これほど多く集まり、意見や情報を交換できる場があることに羨ましく感じました。
印象的だったのが、3点。
・食材となる環境から創造される料理(ストーリー性のある料理)。
・人間の五感すべてを使って味をあわせる料理(食べると言う行為から得られる感覚をストイックに考え、味であれば、酸味、苦味、塩味等どのようにコントロールするか、また香りであれば、食材から出る香気成分を濃くするため蒸留させ、お出しする時目の前でスプレーするなど、まさに「味をデザインする」といった考え方)
・伝統料理に対する想いが深く、誇りを持って料理されていて、そこにあるのは深い郷土愛。伝統を残しつつ斬新な料理に仕上げる。(食材や味を一度分解して、新たな調理法などで再構築する)
そしてとにかく、料理人たちがみんなカッコイイんです。
それってとても大事なことだと最近特に思います。子供達が「将来は料理人になりたい」と思うような職業に。
カッコ良くて、食べる人を幸せにできる、やりがいのある、美味しいものが食べれて、そして社会貢献もできる、そんな素敵な「料理を作るという仕事」に。
2日目は美食倶楽部での調理交流でした。
ルイス・イリサール料理学校 ホセチョ・リザレッタ教頭と倶楽部の皆さんとで行いました。通訳の方もいますが、身振り手振りしながら一緒に調理する、とても貴重な体験が出来ました。
美食倶楽部とは、サン・セバスティアン発祥の素人による料理サークル。最古の倶楽部が組織されたのは1900年ごろ。BAR街に40近く、市内に100以上存在し、プロの料理人のレベルアップにもつながっているそうです。中には料理人ばかりの美食倶楽部もあるらしいです。
リザレッタ教頭からは、「鮟鱇のほほ肉」の料理方法でオリーブオイルの油脂成分とニンニクの旨味をベースに食材から出る水分や魚の骨と香味野菜から引いたダシなどを乳化させソースにしていく手法を教わり、あさりごはん、イカスミ、バカラオの出汁の取り方など多種の料理技法を学びました。
事前に準備していた丹後の調味料(酢、味噌、塩、酒粕など)も持ち込み、現地の食材でメンバーがそれぞれにオリジナルな料理も仕上げました。最後の、皆でシードル(甘くない現地のりんご酒)を飲みながらの会食は最高のひと時でした。
そして、なんといっても夜の楽しみは「バル街」です。
BAR(バル)で提供されるのはバスク地方特有の料理である一口サイズの「ピンチョス」(小皿料理、串刺し料理)が中心です。各店でオリジナルのものが創作され、カウンターに綺麗に並べられており、見た目にも楽しく、価格も300円前後の物が多く、リーズナブルに設定されています。現地ではピンチョスとともに「チャコリ(白ワイン)」や「シードル(りんご酒)」と呼ばれるバスク地方の地酒を一杯ひっかけ少しずつ食べ歩きをするのが一般的で、街全体の発展に大きく繋がっているようです。チェーン店やコンビニエンスストアなども全く見当たりませんでした。観光客だけでなく、現地の皆さんがバルが好きで、食べることが好きで、お酒を飲むことが好きで、バスクの食材が好きなのが、至る所で感じることが出来ました。
お酒もピンチョスもついつい食べ過ぎに飲みすぎでした。特に飲物はシードルにはまりました。
ミシュラン三ッ星レストラン「Akelarre(アケラレ)」(オーベルジュスタイルでホテルは五つ星)
レストラン「アケラレ」オーナーシェフのペドロ氏は、ポールホキューズ(フランスの三ッ星レストラン)に師事し、帰国後12人のシェフを毎週集めて調理し、上客を呼び、ジャーナリストも呼ぶことで料理を広めることにも努めた人物。レシピを共有し合うことで調理技術をメンバーで研鑽し、料理そのものだけでなく、それに付随するものまでに価値を見出し、料理人の地位を向上させることに尽力してきた方です。自店でも、お客様に驚きと感動を与えることを提唱する様に。ただ食べるだけではなく、目で見て楽しめる料理、五感を刺激する料理を提供。
私たちが頂いた当日のコースでもバスク地域の塩田で採れたフレーク塩(お土産用もあり)を使ったお皿も登場し、地元加工品の周知にも貢献されていました。これも料理人ができる社会貢献の一つなんです。
キッチン以外には、「料理研究室」という「Labo(ラボ)」があり、研究員はレシピ開発の研究のみに専念をしているという事には驚かされました。研究室にはサーモミックス、食品乾燥機、オイルバス、真空包装機など、最新設備がそろっており、まさに実験室です。
番外編で三ッ星レストラン「Martin Berasategui(マルティンベラサテギ)」にも行ってきました!
約3か月前にWEBから予約して、ワクワクでした。
そして、もちろん素晴らしいお料理に素敵な方でした。
視察に行ったメンバー皆で考えた総括です。
サンセバスチャンは世界から美食が集まる街。「美味しい料理が食べられる」と言う町になるのには昔からの歴史がありました。美食倶楽部の存在、料理人同士がレシピを共有したり、研究開発をしたりして切磋琢磨することでレストラン業界全体のレベルアップに繋がったようです。そして何よりも料理人や市民が街(地元)を愛し、地食材を愛して止まないという情熱が多く伝わってきました。
丹後も「カニ・アワビ・ノドグロ」と言う高級食材を目玉にしていくと流通や安定供給の問題でどこかで無理が生じます。いつ来ても「丹後に行けば美味しい物がある」と言えるようになるには、今ある地元の食材で美味しい料理や驚きや感動を与える料理を提供する技量を磨くことは必要不可欠であり、もっともっと料理人が楽しみながら地元のテロワールを大切にしていく事が重要であると考えます。例えば丹後にラボや美食倶楽部をヒントにシェアキッチンを立ち上げ、少人数の勉強会や丹後の郷土食の再構築などを考える場所を作り、「たんちょす」などを含めた「新しい丹後食」を開発し、ガストロノミカや特別レストランなどの形も含めて市内外へ発表、発信していければと願います。
加えて、アニャナ塩田の塩のように、バスクのレストランがみんなで使うことで復興していったことなど、シェフと生産者が協力して、伝統を守っていること、学ぶべきところは沢山あるように思います。
料理人はともすれば競合する関係であり、我々5人は、当初はレシピの共有などは極めて難しいのではないかと考えていました。しかし、志を同じくする5人で研修を重ね、また現地を視察して世界のトップシェフの食への想いを共有する中で、5人の考え方にも変化が表れていると感じています。例えば、事前研修の中では、山にキノコを採りに行き、おいしい部位や調理方法を共有したり、自社で作った新しい乳製品を持ち込んで試食し、当該乳製品に合う料理について意見を出し合ったりもしました。視察研修を終えて帰国してからは、さらに意見交換や情報交流が深くなっています。例えば、研修者の1人が昨年作った調味料がおいしかったということで、みんなに作り方を教えたり、個々に野菜を含めた自作の食材を交換・販売しあったり、さらには、5人以外の市内の料理人との交流会を企画したりと、活動の場も広がっています。すなわち、志を同じくする仲間をたくさん作り、その中で意見交換や情報交流を活性化させられれば、最終的にはレシピの共有や公開をすることも不可能ではないと感じています。
料理人と生産者や漁師、加工業者や販売店などが横につながり、それぞれに敬意を表し、郷土愛を有した、「All Tango(オール タンゴ)」こそが、京丹後市美食都市計画においてもっとも必須であると考えます。それには行政の立ち回りもとても重要ともなると考えます。
そのために、今後の展開として、賛同してくれる料理人や生産者などの丹後の食に関係する様々な関係者がマッチングできる場として、今回の視察研修の報告会も兼ねたイベントの開催や、市とも協力してのシェアキッチンの立ち上げなど、丹後の素材をより魅力的にできるようなイベントや場所づくりを進め、丹後で作った素材が欲しい、丹後で作った料理が食べたいと言われるよう、生産者、料理人などが力を合わせて、より良い丹後にするために進んでいけるような活動がしていきたいと切に願う次第です。
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琴引浜 鳴き砂温泉の宿
和のオーベルジュ まつつる
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